コラム

労働基準監督署の調査対応

給与・社保・人事労務

「労働基準法違反の疑いで書類送検」。

このような見出しをインターネット等のメディアを通じて定期的に目にします。

「働く」ということに大きく関係する法律は労働基準法であり、その法律の適正な実施のため、中央機関としては厚生労働省、地方機関としては都道府県労働局及び労働基準監督署が設置され、各機関には、労働基準監督官が配置されております。

そこで今回は、労働基準監督官の権限や実際の調査、そして、その調査対応について見て行きたいと思います。

実はコワイ⁉労働基準監督官は特別司法警察職員

労働基準監督官のイメージというと国家公務員、さらに労働基準法を中心に労働関係法令に違反があると、色々と指摘してくる人達という見方が多いのではないかと思います。

しかし、実は、労働基準監督官は通常の国家公務員とは異なり、「特別司法警察職員」としての権限が労働基準法102条等で与えられております。この特別司法警察職員の権限は、刑事訴訟法189条で規定されており「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする」とされ、簡単に言い換えますと、警察と同様に監督指導(いわゆる調査)を通じて認識した労働基準関係法令違反の被疑事件の一部や告訴・告発を受けた事件について、捜査を行い、事件を検察庁へ送致・送付することができ、また、強制の処分である捜索・検証・差押のほか、被疑者を逮捕・勾留することも可能という非常に強い権限と持っています。

※労働基準監督官のほか、皇宮護衛官や麻薬取締官、海上保安官等も特別司法警察職員としての権限を有しております。

労働基準監督官の調査の種類

労働基準監督官の重要な業務として「監督指導」というものがあり、そのうち、労働基準監督署が毎月計画的に実施しているものを「定期監督」と言います。この定期監督については、大きく2つの方法があり、1つ目としては労働基準監督官が事業場を訪問するもの、2つ目としては事業主(又は会社の担当者)を労働基準監督署に呼出すもの、があります。

労働基準監督官が事業場を訪問する場合、何ら予告もなく突然来る場合と、連絡が入った後に来る場合がありますが、予告もなく来るのが原則となっています。

上記の定期監督の他にも、労働者からの事業場の労働基準法等の違反の存在に対する申告により実施する「申告監督」、労働災害が発生した際に実施される「災害時監督」、是正勧告を出した法令違反の是正状況を確認する「再監督」があります。

調査の際に確認される書類等

では次に、実際の調査の際にどのような書類等を確認されるのか見て行きたいと思います。

今回は、定期監督の際に求められる可能性が高いものを下記の通り、紹介させて頂きます。

  • ①労働者名簿
  • ②労働条件通知書等、雇入れ時の労働条件を確認できるもの
  • ③就業規則(賃金規定を含む。)
  • ④タイムカード等、労働時間が確認できるもの
  • ⑤賃金台帳等、支払賃金の内訳が分かるもの
  • ⑥時間外・休日労働実績一覧表
  • ⑦各種協定(36協定、変形労働時間、賃金控除等)
  • ⑧年次有給休暇管理簿
  • ⑨健康診断個人票
  • ⑩安全管理者、衛生管理者、産業医の選任状況が分かるもの
  • ⑪安全衛生委員会議事録

※⑩及び⑪については、労働者数が50人以上の事業場の場合

上記の各書類は、非常に基本的な書類になりますが、実際の調査の場では、勤怠に対して過重労働の有無や残業の未払い等も上記の書類に基づいて確認が実施されます。

実際の調査対応にあたって

労働基準監督署の調査が実施されることになった場合、企業の担当者からすると、どう対応すべきか、そして、実際に法違反がない場合であっても、何か指摘されるのではないかと非常に不安になるのではないかと思います。

しかし、多くの場合、①担当する労働基準監督官と連絡を取り、詳細を確認する、②求められた書類をしっかりと準備する、という、当たり前のようなこの2点を実施することで調査自体はスムーズに実施されます。一方で、書類をなかなか提出しない、呼出しに応じない(何度も先延ばしにする)、といった場合には、逆にいつになっても調査が終わらず、より細かく確認されることも容易に想像出来ます。

「急がば回れ」ということで、調査への準備を事前にしっかりと行うことが、調査自体を最短距離で完了させることになると思われます。

適切な対応のために

労働基準監督署の調査には様々なものがあり、求められた書類を提出すれば良いとは言うものの、やはり専門的な用語や労働基準法をはじめとする労働関係法令の適正な解釈の話になった場合、労働基準監督官の対応を企業の担当者が実施することは難しくなってきているかと思います。もし、法違反が確認され、是正勧告が行われた場合には、その対応も実施しなくてはなりません。

EPコンサルティングサービス及び社会保険労務士法人EOSでは、労働基準監督署の調査が実施されることが決定した後の労働基準監督官とのコンタクトから、提出する書類の内容確認、当日の立会、そして、もし是正勧告が行われた場合にはその対応についてまで、調査に関連する一連のプロセスをサポートすることが可能となりますので、もし、労働基準監督署の調査が行われる場合には、お声がけ頂きたいと思います。

松本 好人

松本 好人Yoshito Matsumoto

HRソリューション事業部 取締役事業部長 特定社会保険労務士 社会保険労務士法人EOS 代表社員 法学修士、日本労働法学会所属 大学院修了後、栃木労働局での相談業務、横浜の社労士事務所を経て、EPCSに入社。

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