コラム
「前年踏襲」で済ませていませんか?
「前年踏襲」が税務で危険な理由
経理業務や税務業務において、「前年と同じように処理しておいてください」というやり取りは珍しくありません。確かに、毎年発生する取引については前年の処理を参考にすることで効率的に業務を進めることができます。しかし、税務の世界において「前年踏襲」は時に大きなリスクとなります。
実際の税務調査でも、「以前からこう処理していたので問題ないと思っていた」という説明を耳にすることがあります。しかし残念ながら、前年の処理が正しかったとは限りません。また、税制改正や取引内容の変化によって、前年と同じ処理が適切でなくなっているケースもあります。
今回は、「前年踏襲」が税務上なぜ危険なのかについて考えてみたいと思います。
前年の処理が正しいとは限らない
税務調査でよく見られるケースの一つが、「誤った処理が何年も引き継がれている」というものです。例えば、交際費として処理すべき支出を会議費として計上していたケースや、資本的支出に該当する工事費を修繕費として処理していたケースなどがあります。これらは一度処理方法を決めると、その後も同じように処理され続ける傾向があります。
担当者からすると、「前年もそうだった」「前任者がそうしていた」「税理士から特に指摘されていない」という理由で安心してしまいがちです。しかし、税務調査官の視点では、その処理が今年の税法に照らして正しいかどうかが重要です。前年から継続していたこと自体は、正当な理由にはなりません。
むしろ、誤った処理が複数年継続している場合には、修正申告の対象期間が広がり、追徴税額が大きくなる可能性もあります。
税務は「実態」で判断される
税務の特徴の一つは、勘定科目だけではなく「実態」で判断されることです。
例えば取引先との会食費用を会議費として処理したとしても、その実態が接待や関係維持を目的としたものであれば交際費に該当する可能性があります。逆に、打合せが主目的であり、会議としての実態が認められる場合は会議費になることもあります。
つまり、同じ科目で計上していたとしても、取引内容や背景が変われば税務上の判断も変わる可能性があるため、前年と同じ科目を使用していても、本当に前年と同じ実態なのかを確認することが重要です。
税制改正は毎年行われている
税務のもう一つの特徴は、制度が毎年のように変わることです。
近年だけでも消費税のインボイス制度や電子帳簿保存法への対応など、経理処理や証憑管理に大きな影響を与える改正が続いています。前年は問題なかった処理でも、制度改正によって今年は問題となる場合があります。特に消費税や電子取引データの保存要件などは、「今までこうやっていた」が通用しない典型例といえるでしょう。
税務リスクを低減するためには、前年の処理をコピーするのではなく、その処理が現在の制度に適合しているかを確認する習慣が必要です。
「なぜその処理をしたのか」を説明できるか
税務調査で重要になるのは、処理結果よりも「なぜその処理をしたのか」という判断根拠です。税務調査官から質問された際に、「前年もそうだったので」だけでは説明として不十分です。
一方で、「取引内容を確認した結果、会議目的であるため会議費と判断した」「工事内容を確認した結果、原状回復であるため修繕費と判断した」という説明ができれば、調査官とのコミュニケーションも大きく変わります。
そのため日頃から、判断に迷った取引についてはメモや根拠資料を残しておくことが大切です。実際、税務調査で困らない会社になるためには、「証憑を残す」「理由を説明できるようにする」「判断を記録する」ことが重要とされています。
おわりに
前年踏襲そのものが悪いわけではありません。業務の効率化という観点では非常に有効な方法です。しかし税務においては、「前年もそうだったから」という考え方が最も危険な思い込みになることがあります。税務は例外規定が多く、取引の実態や制度改正によって結論が変わる世界です。
だからこそ重要なのは、前年の処理をそのまま引き継ぐのではなく、「なぜその処理をしているのか」を理解することです。
税務調査で重要視されるのは、完璧な処理ではなく、合理的に説明できる処理です。「前年もこうだったから」ではなく、「今年も妥当だと判断したから」と言える体制を会社で整えましょう。

伊藤 央Ito Hisashi
ACCTソリューション事業部 マネージャー 税理士 2025年EPコンサルティングサービスに入社。国内事業会社・外資系事業会社・SPCの会計と税務を担当
