Column
あれっ、これだけ・・・
4月、新年度がスタートしました。
ここ数カ月の間、今までにないくらい「昇給」「ベースアップ」「給与見直し」というような言葉を、各メディアを通じ、見聞きしているのではないかと思います。
東京商工リサーチ社が実施した「2023年度「賃上げに関するアンケート」調査(第2回)」によると、2023年度に賃上げを実施すると回答した企業は、回答を得た企業のうち80.6%となっており、賃上げ率については、賃上げを実施すると回答した企業の約70%が、「5%未満」という回答になっておりました。
また、給与をもらう従業員目線ですと、例えば給与30万であれば、5%アップで、15,000円増えると思っていたところ、いざ、給与明細や振込金額を見てみると、「あれっ」と思うこともあるかと思います。
そこで今回は、給与改定や給与から控除されるもの等について、触れてみたいと思います。
給与改定は、必ず、実施される!?
今回は、「賃上げ」「昇給」というものをキーワードとしていますが、そもそも、企業は「昇給」を実施しなければならないものなのか。
給与をいつ払うのか、どのような手当てを払うのか、そして金額はいくらにするのか、ということは、あくまで「決め」の問題となり、賃金の支払いに関する会社のルールとなります。そういう意味では、「昇給」の有無も賃金支払に関するルールであるため、法律上、企業は昇給を実施しなければならないか、というとそのようなことは無く、「昇給」というものが、会社のルールとして、存在しているのか、ということがポイントとなります(当然のこととなりますが、最低賃金等の法律上の基準は超えていなければなりません。)。
労働基準法89条をみてみますと、第2号で「賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」と記載がありますので、就業規則に記載しなければならない事項の1つとして、「昇給」が含まれておりますので、一度、皆さんの会社の就業規則を見てみると良いかもしれません。
給与から控除されるものとその計算方法
次に、冒頭で「5%アップで、総額は15,000円増えているけど、手取りを見てみると…」という点について、見て行きたいと思います。
折角の機会ですので、是非、ご自身の給与明細を見てみてください。健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、所得税に住民税、様々なものが給与から控除されているかと思います。そして、給与改定前後で、各項目の金額がどう変化しているか、確認してみてください。
それでは、上記で示した項目について、見てみたいと思います。
(1)健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料
まず、健康保険料、介護保険料及び厚生年金保険料です。これらの保険料は、給与額に応じて決定される標準報酬月額に保険料率を乗じて、算出されます。そして、保険料算出の基礎となる標準報酬月額は、毎年7月に行われる定時決定(算定基礎届)又は基本給等の固定的賃金が変動した月を含めて3か月間の平均を算出し見直しを実施する随時改定(月変)により変更されることとなりますので、昇給の影響を受けて、その月から保険料額が変更となることはありません。そのため、数か月後にこれらの保険料が変更となった場合には、昇給が影響している可能性があるかと思います。
(2)雇用保険料
次に雇用保険料となります。雇用保険料は、雇用保険対象賃金に保険料率を乗じて保険料額を算出します。基本的に給与すべてが雇用保険対象賃金と思っていても、概ね、間違いありません。そのため、現状、雇用保険料率(被保険者負担分)は、6/1,000、となっていますので、15,000円の昇給に対しては、90円雇用保険料がかかってくるということになります。
(3)所得税
次に所得税です。所得税は、毎月の課税支給額から社会保険料を控除した課税対象額に対し計算が行われることとなります。そのため、課税支給額が増えれば、自ずと所得税額も増えてくる計算となります。この課税対象額の反対、つまり、所得税計算に含まれないものは非課税支給額となりますが、非課税支給額は、基本的に通勤手当のみと思っていただいていても、大きな間違いにはなりません。そのため、今回のように昇給が実施されれば、基本的には、所得税額も増加することとなります。
(4)住民税
最後に住民税となります。住民税は前年(1月~12月)の給与額に応じ、各市区町村で決定するものとなります。そのため、上記(1)の健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料と同様、昇給が行われた後、直ぐに金額が変更となるものではありません。
給与から住民税が控除される場合、6月から翌年5月までの1年間で年額の12分の1が毎月控除されることとなります。そのため、基本的には、毎月定額が控除され続けるものとなります。
正しい給与計算を実施するために
今回、「昇給」という事象から、その根拠、給与から控除されるものへの影響を見てきました。実際に昇給に伴う給与計算という視点では、多くの場合、遡及して給与額が変更となるケースが多々ありますので、その差額の調整、残業代の調整、そして給与計算システム上は正しい単価が反映されているか等、細かいところで様々な確認が必要となってきます。
EPコンサルティングサービスでは、複数担当者によるWチェック体制等のミスの発生しない仕組みにおいて、クライアントに対し、給与計算。社会保険手続き、労務相談等のサービスを提供しております。人事部の皆さんがコア業務に専念するために、そして、正しい給与計算を実施するため、一度、お気軽にお声がけ頂ければと思います。
Yoshito Matsumoto
HR Solution Division/Director and Business Manager Specified Social Insurance and Labor Attorney Social Insurance Labor Consultant Corporation EOS Representative employee Master of Comparative Law, Japan Labor Law Association After graduating from graduate school, he was a consultant at the Tochigi Labor Bureau and worked at a social insurance and labor attorney office in Yokohama, then joined EPCS.